孫子オタクが挑んだ「新しい孫子の兵法」
孫子オタクが挑んだ「新しい孫子」
『竹簡孫子研究 戦いの原理は、陽で陰を撃つ』横山成人
今回紹介する著者は、横山成人さんです。
横山さんとの出会いは、倫理法人会でした。
同じ北海道出身ということもあり、話をするようになりました。
第一印象を一言でいえば、
「孫子オタク」
でした。
もちろん、いい意味です(笑)。
孫子が好きという人はたくさんいます。
ビジネス書として孫子を読む人もいれば、有名な言葉を経営に取り入れている人もいます。
でも、横山さんは少し違いました。
原文まで戻って読む。
しかも、孫子だけではなく、東洋哲学そのものを原文から考えようとする人です。
「そこまでやるの?」
と思うくらい掘っていく。
本書でも、竹簡孫子を丹念に読み、古い漢字や現在使われていない字もできるだけ残し、字源や他の古典での使われ方まで調べています。
だから私は、横山さんを「参謀タイプ」だと思っています。
実際、私は何かあると横山さんに、
「これ、孫子兵法ではどう考えるの?」
と質問します。
すると、目の前の出来事だけで考えるのではなく、一段上から状況を見て答えが返ってくる。
私はそれが面白いのです。
横山さん自身、本書では『孫子』を単なる戦いのテクニックとしてではなく、「相対」「易」「中」「全き」「智」「君主」という六つのキーワードから捉えています。特に「智」を、利と害の両面から考えることとして、戦略や経営、人生にも応用しようとしています。
そんな横山さんから、この本の出版の話が出ました。
最初から現在の形だったわけではありません。
何度も、何度も書き直しました。
原稿を直す。
考え直す。
また原文に戻る。
解釈を見直す。
その繰り返しです。
そして、忘れられない出来事があります。
途中でデータが飛びました。
これは、かなりきつかったと思います。
ただでさえ、何年もかけて調べ、考え、書いてきた原稿です。
普通なら、心が折れてもおかしくありません。
それでも横山さんは、また書きました。
私は、この出来事に横山さんの「オタク気質」が一番よく表れているように思います。
好きだから調べる。
納得できないから、もう一度読む。
違うと思えば書き直す。
そして、データが飛んでも、また作る。
そこまでして横山さんが残したかったものは何だったのか。
私は、「孫子の新しい解釈」だったのだと思います。
横山さんは、従来の解釈をそのまま受け入れませんでした。
原文を何度も読み、一つひとつの漢字の使われ方を精査していく。
そして、そこに東洋思想の根底にある陰陽理論を入れて読んでみる。
すると、これまでとは違う孫子が見えてきた。
横山さん自身も、陰陽の性質を前提に読むことで『孫子』の教えが理解できるようになると述べています。さらに、陰陽をベースに孫子を体系化し、「実際に使えるようにする」ことを目指して本書を書いています。
さらに面白いのは、漢字そのものを疑っていることです。
たとえば「道」と「法」。
従来はどちらも「原則」や「方法」と訳されることがあります。
横山さんは、『孫子』のすべての使用箇所を精査して、「道」は「見極め方」、「法」は「うまくやる方法」と区別できるのではないかと考えました。
そうすると、文章そのものの意味が変わってくる。
「将」という字も、従来の読み方にある「まさに」や「もし」ではなく、原則として「将軍」の意味で読む。
「人」は多くの場合「相手」と読む。
一つひとつルールを作り、全文に当てはめ、それで整合性が取れるかを確かめていく。
まさに、オタクです(笑)。
でも、私はそこに共感します。
なぜなら、横山さんがやろうとしているのは、
「自分はこう思う」で終わらせないこと
だからです。
自分が見つけた新しい読み方を、本という形にして残す。
横山さんは、本書を「私の志であり、数年にわたる研究の成果」と書いています。そして日本だけではなく、中国や台湾、さらには世界で読まれることまで視野に入れています。
私は出版社をやっていますから、ここに一番共感します。
新しい解釈を見つけたのであれば、それを自分の頭の中だけに置いておくのではなく、歴史に残したい。
正しいかどうかは、後の人が検証すればいい。
批判されるかもしれない。
違うと言われるかもしれない。
実際、横山さん自身も、従来と異なる解釈が多く、研究者から違和感を持たれたり、根拠が不十分だと批判されたりする可能性があることを承知したうえで、本書を発表しています。
それでも、残さなければ何も始まりません。
横山さんは、「伝統的な解釈に盲目的に従うのではなく、原文を何度も読むことで真意を掴もうとした」と書いています。
私は、この姿勢が好きです。
横山成人という人を一言で言うなら、
やっぱり、
「オタク気質の人」
です。
ただし、何かを歴史に残すのは、案外、こういう人なのかもしれません。
誰もそこまでやらないところまで掘る。
何度でも原文に戻る。
何度でも書き直す。
データが飛んでも、また書く。
そして、
「今までとは違う孫子の読み方がある」
と、一冊の本として世に問う。
『竹簡孫子研究 戦いの原理は、陽で陰を撃つ』は、そんな一人の「孫子オタク」が、数年かけてたどり着いた研究の記録です。
竹簡孫子研究 戦いの原理は、陽で陰を撃つ
商品紹介
人間学教室
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