100kmウォークは「脚力」の競技ではなかった。54km地点で私が知った、セルフマネジメントの本質

◆100kmウォークは「脚力」の競技ではなかった。54km地点で私が知った、セルフマネジメントの本質

 先日、人生で初めて「100kmウォーク」に挑戦し、無事に完歩することができました。

しかし、この過酷な挑戦を通じて得た一番の収穫は、完歩の達成感ではありませんでした。それ以上に大きかったのは、仕事や人生のパフォーマンスにも直結する「ある決定的な勘違い」に気づけたことです。

挑戦する前、私はこう思っていました。
「100kmウォークは、何よりも足腰の強さ、つまり『脚力』の勝負だ」と。

普段から歩き慣れている人が有利で、地道に足腰を鍛えれば歩き切れる。そんなシンプルなイメージを持っていたのです。

しかし、その思い込みは、中間地点を過ぎた「54km地点」で無残にも打ち砕かれることになりました。

 

突如として訪れた「動かない身体」と、甘いものの奇跡

50km付近を過ぎたころから、私の身体に異変が起きはじめました。

決して、歩けないほどの激痛が足にあるわけではありません。

しかし、どうしてもスピードが出ないのです。

足を前に踏み出そうとしても、まるで泥のぬかるみを歩いているかのように、身体が言うことを聞きません。それと同時に、頭をモヤモヤとした軽い眠気が襲ってきました。

「これが、単なる疲労なのだろうか……」

そんなことを思いながら、ポケットにあった飴を口にしました。

すると、数分後に信じられないことが起きたのです。

あんなに重かった足が、不思議なほどスルスルと前に出るようになり、頭の霧も晴れていきました。まるで、ガス欠の車にガソリンを給油したかのような劇的な復活でした。

後から調べて知ったのですが、これは「ハンガーノック」と呼ばれる状態でした。
極限の長時間運動によって体内の糖質(エネルギー源)が完全に枯渇し、脳や筋肉がシャットダウンを起こして急激に動けなくなる現象です。

あの時のたぶん私は、まさに身体のエネルギーが「ゼロ」になっていたのでした。

 

100kmの本質は「エネルギー管理(マネジメント)」にある

この痛烈な体験を経て、私はひとつの真実にたどり着きました。

「100kmウォークは、脚力の競技ではない。エネルギー管理の競技である」

もちろん、最低限の脚力は必要です。しかし、それだけでは決して100kmは歩けません。

・どのタイミングで糖質を補給するか。
・水分と塩分のバランスは保たれているか。
・眠気や疲労の兆候をどうコントロールするか。
・前半のハイペースで、エネルギーを無駄遣いしていないか。

こうした緻密な「セルフマネジメント」こそが、後半の明暗を分けるのです。

そして、最も重要な教訓はこれでした。
「『お腹が空いたから食べる』『疲れたから休む』では、もう遅すぎる」ということです。

元気なうちに次のエネルギーを仕込む。疲労を感じる前に休む。
枯渇する前に先回りで補給し続けること。

これこそが、100kmという極限の世界を生き抜く唯一のルールだったのです。

 

 

仕事でも、私は、まったく同じことが言えます。

私は出版社を経営し、時にジャーナリストとして取材に奔走する日々を送っています。仕事に熱中するあまり、つい「まだ大丈夫」「もう少し頑張れる」と、心身の限界を引き延ばしながら走り続けてしまいがちでした。

しかし、本当に必要なのは、倒れてから休むことではありません。

必要なことは「疲れる前に、自らを整えること」です。

・集中力が切れてからコーヒーを飲むのではなく、定期的に小休止を挟む。
・燃え尽き症候群(バーンアウト)になる前に、あらかじめ「何もしない時間」をスケジュールに組み込んでおく。
・メンタルや体力が底を突く前に、心と身体に「良質な栄養」を与えておく。

身体も、心も、そしてビジネスのパフォーマンスも、すべては「切れる前の予防的なアプローチ」にかかっているのだと、身を以て理解しました。

54km地点は、失敗の場所ではなかった

もし54km地点で、あの「動けなくなる恐怖」を経験していなければ、

私は今でも「100kmは根性と脚力の勝負だ」と勘違いし続けていたでしょう。

 

だからこそ、今なら思えます。
54km地点は、私を苦しめた挫折の場所ではなく、「セルフマネジメントの本質」を教えてくれた最高の教室だったのだと。

次にまた新たな挑戦をするとき、脚力ではないを鍛えるだけでは臨まず、
自分の身体と対話し、エネルギーをどう管理し、持続可能なペースをどう設計するか。

そこまでを含めた「戦略」を持って挑みます。

100kmウォークはよく「自分との戦い」と言われます。
しかしその実態は、「自分をどう愛し、どうマネジメントするか」を学ぶ、きわめて知的なゲームなのかもしれません。

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