◆なぜこの事件は違和感を残すのか ~「誰が悪いか」では見えない問題~
◆なぜこの事件は違和感を残すのか
~「誰が悪いか」では見えない問題~
本稿は現時点で報道されている情報を基にした考察であり、事実として確認されている事項と、私自身の疑問・推測・問題提起が含まれていることをあらかじめお断りしておきたい。
この事件、何かがおかしい。
そう感じた人も多いのではないだろうか。
明日は自分の家庭かもしれない。
そう考えたとき、この問題は他人事ではなくなる。
報道だけを見ていると、「暴行事件」として片付けられそうになる。
しかし、本当にそれだけの話なのか。
児相問題やAI活用に関わってきた私の立場から見ると、色々と疑問点がある。
報道されている事実は限られている。
阿部氏が娘とのトラブルをめぐって現行犯逮捕され、その後釈放され、巨人軍監督を辞任したことは事実である。
しかし、
・事件当時に何が起きていたのか
・児相がなぜ、110番に、誰がどのような通報をしたのか
・児相がどのように関与したのか
・警察は何を根拠に逮捕したのか
・なぜ即日あるいは翌日に釈放されたのか
については、現時点では十分に明らかになっていない。
その前提で考えてみたい。
○第一の論点
阿部氏の行為は問題だったのか
報道によれば、
・胸元をつかんだ
・押し倒した
・飲酒後だった
・相手は娘だった
とされている。
これが事実であれば、法的には暴行罪として評価される可能性が高い。
一方で、
「親子げんかではないか」
という声もある。
しかし、
親子げんかであることと、
法的に暴行が成立することは別問題である。
暴行行為自体は問題である。
少なくとも、
阿部氏の行為に問題がなかったと断定することも、逆に極悪な虐待だったと断定することも、
現時点の情報だけでは難しい。
○第二の論点
逮捕は適法だったのか
報道を見る限り、
現行犯逮捕あるいは準現行犯逮捕の要件を満たしていたのかについて疑問である。
つまり、
暴行があったことと、
逮捕が適法だったことは別問題である。
報道によれば、
・娘がAIに相談した
・児相に連絡した
・その後110番通報が行われた
・警察が到着した
という流れであるとされる。
もしそうであるなら、
警察官が暴行現場を直接目撃したわけではない可能性がある。
その場合、
現行犯逮捕あるいは準現行犯逮捕の要件を本当に満たしていたのかという疑問が生じる。
もちろん、
違法逮捕だったと断定できるわけではない。
しかし、
翌日あるいは即日釈放という異例の経過を見ると、
警察内部でも手続き面について何らかの検討が行われた可能性は否定できない。
これは推測の域を出ないが…。
さらには、児相職員がその後臨場したのかが不明である。
○第三の論点
なぜ逮捕に至ったのか
ここはほとんど報道されていない。
一般論として、
DV案件や家庭内暴力案件では、
110番通報があれば警察が迅速に介入する。
これは被害者保護の観点から必要な制度である。
問題は、
今回のケースがどのような経緯だったのかである。
報道では、
児相が関与したとされている。
しかし、
・児相がどの程度関与したのか
・児相から警察へどのような連絡が行われたのか
・なぜ110番だったのか?
・警察はどのような判断をしたのか
は十分に明らかになっていない。
児相から警察へ、
そして逮捕へ、
という流れが事実であったとしても、
それが適切な制度運用だったのか、
あるいは過剰介入だったのかは、
現時点では判断できない。
ただし、
家庭内の問題に国家権力がどこまで介入するべきなのか、
という問いは確かに存在する。
一般に、虐待や家庭内暴力が疑われる案件では、子どもの安全確保のために一時保護が行われる事例が多い。その意味で、今回どのような判断がなされたのかは興味深い論点である。
○第四の論点
「不透明さ」
私は、逮捕の適法性だけでなく、
事件処理全体の不透明さにも疑問がある。
・記者会見に登場した弁護士は、
「弁護人」ではなく「代理人」として紹介された。
刑事事件であれば通常は弁護人が登場する。
なぜ代理人だったのか。
現時点でその理由は明らかになっていない。
さらに、誰が弁護士を用意したのか。
球団が危機管理の一環として弁護士を手配した可能性がある。
これも現時点では確認された事実ではなく推測である。
・母親(妻)の存在
さらに不思議なのは、母親の証言がほとんど出てこないことである。
もちろん、報道されていないだけで、警察や児相が母親から事情聴取している可能性は十分にある。
報道によれば、現場には妻や次女もいたとされる。
もしそうであれば、
妻は重要な目撃者である可能性が高い。
しかし、現時点で母親の見解や証言はほとんど報じられていない。
なぜなのか。
これは疑問として残る。
・娘の手紙
公表された娘の手紙も話題になった。
その内容は、
父親の処罰を望まないという趣旨であった。
しかし、誰が作成に関与したのか、
どのような経緯で公表されたのかは明らかではない。
本人の意思によるものかもしれないし、専門家が助言した可能性もある。
現時点では判断できない。
○第五の論点
AIは何をしたのか
今回の事件で最も現代的な特徴は、
娘がChatGPTに相談したと報じられたことである。
私はAIを日常的に活用しているので、
AIの利用そのものを否定するつもりはない。
しかし、AIには限界もある。
AIは一般的に公表されている情報や制度運用を基に回答する傾向がある。
したがって、
虐待の可能性が示唆されれば、
児相への相談や警察への連絡を勧める回答になる可能性が高い。
一方で、
一時保護問題や児相運用をめぐる議論、
いわゆる「児相問題」については、
質問の仕方によっては十分反映されないこともある。
つまり、
AIは万能ではない。
プロンプトによって回答は変わる。
AIに相談することと、
AIに判断を委ねることは違う。
もしAIの助言が、そのまま現実の制度を動かす引き金になるとすれば、それは単なる「相談ツール」ではなく、社会に影響を与える存在である。
そこを混同してはいけない。
○第六の論点
本当に問われるべきものは何か
この事件の本質は、「誰が悪いか」ではない。
この事件を
「阿部氏が悪い」「親子喧嘩だ」
あるいは
「児相が悪い」
だけで終わらせるのは簡単である。
しかし、
本当に見なければならないのは、
もっと大きな問題であろう。
・法律の問題
現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件
DV対応
警察権力の行使
・社会制度の問題
児相の権限
一時保護制度
家庭への介入
通告社会
・AI時代の問題
AIへの依存
判断の外部化
情報の偏り
思考停止の危険性
である。
私は、言いたい。
感情論やあなたの価値観でこの事件を判断する前に、
暴行事件であったのかを問う。
逮捕手続きの適正性を問う。
児相制度のあり方を問う。
AIとの向き合い方を問う。
まず手続きは適正だったのかを検証することの重要性である。
一方で児相問題に取り組む私としては、
・児相がどのように関与し、警察へどのような情報が伝達されたのか?が検証されなければならない。
一般に児相は「子どもの安全確保」を最優先に動く。
しかし、その判断基準は外部から見えにくい。
だからこそ今回のようなケースでは、
・どの情報を基に
・どの段階で
・どの機関が判断したのか
の検証が不可欠である。
そしてAI時代を生きる私たちは、
AIを活用しながらも、
AIが正しいとも限らないので、
最終的には自分の頭で考え、判断しなければならないのである。
私たちはいつから、自分の家庭の問題を、自分たちで考え、自分たちで解決することをやめてしまったのだろうか。
もちろん暴力は許されない。
虐待があれば介入も必要である。
被害者保護は最優先でなければならない。
しかし同時に、
国家はどこまで家庭に介入するのか。
児相はどこまで権限を持つのか。
警察はどこで介入すべきなのか。
AIはどこまで判断を代行してよいのか。
その境界線を考えることもまた重要である。
阿部慎之助事件は、一人の有名人の不祥事として消費されるには、あまりにも多くの問いを私たちに投げかけている。
私が本当に知りたいのは、「阿部慎之助が悪いのか、児相が悪いのか」ではない。
何が起きたのか。
なぜそうなったのか。
その手続きは適正だったのか。
そして、この事件を通して私たちは何を学ぶべきなのか。
その検証なくして、感情だけで誰かを断罪する社会は、決して健全とは言えないのである。
もちろん、本稿は児相批判を目的としたものでも、阿部氏を擁護するためのものでもない。
私は児相問題にも関わってきたため、その視点から見える論点を提示したに過ぎない。
むしろ重要なのは、どの立場に立つかではなく、
事実は何か。
何が分かっていて、何が分かっていないのか。
そして、その手続きや制度運用は適正だったのか。
それを冷静に検証することである。
阿部事件は、感情的に誰かを断罪するための事件ではなく、現代社会の制度と権力のあり方を考えるための事件なのかもしれない。
この事件の本質は、「誰が悪いか」ではない。
国家権力が、どのタイミングで、どこまで家庭に踏み込むのか。
その境界線が、曖昧なまま動いていることにある。
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