がん細胞が消えたという話を、なぜ私たちは疑うのか?
がん細胞が消えたという話を、なぜ私たちは疑うのか?
◆「がんが消えたんです!」
「がんが消えたんです!」
もし、あなたの友人から、こんな話を聞いたらどうするだろう。
「本当? よかったね!」
と喜ぶだろうか。
それとも、
「どうやって治したの?」
「どこの病院?」
「何か特別なことをしたの?」
と聞くだろうか。
あるいは、
「そんなこと、あるわけないじゃないか」
と思う人もいるかもしれない。
私は、たぶんこう聞く。
「えっ、どうして消えたの?」
別に、疑ってかかっているわけではない。
本当に消えたのなら、こんなにうれしいことはない。
でも、何が起きたのか知りたいのだ。
◆同じ話なのに、なぜ反応が違う?
ちょっと考えてみてほしい。
ある人が、病院で抗がん剤治療を受けた。
その結果、検査でがんが確認できなくなった。
「よかったですね!」
多くの人が、そう言うだろう。
では、別の人が、
「食生活を変えたら、がんが消えたんです」
と言ったらどうだろう。
「本当なの?」
「たまたまじゃないの?」
「ほかの治療も受けていたんじゃないの?」
急に、疑問が増える。
もちろん、食生活を変えたことが、がんを消した原因だと証明されたわけではない。
抗がん剤の効果についても、治療経過や検査結果を確認する必要がある。
でも、私が気になるのは、そこだけではない。
同じ「がんが消えた」という話なのに、
誰が、どんな方法で治療したかによって、受け止め方が変わる。
私たちは、結果だけを見て判断しているわけではないのだ。
◆「お医者さんが言ったから」
なぜ、そんな違いが生まれるのだろう。
一つには、信頼の問題があると思う。
医師が説明する。
病院の検査結果がある。
医学的な治療を受けている。
そう聞くと、私たちは安心する。
反対に、聞いたことのない方法や、従来の医学とは異なる考え方が出てくると、警戒する。
それ自体は、おかしなことではない。
医療には、長年積み重ねられてきた研究や検証がある。
その信頼には理由がある。
ただ、私は一つ気になる。
私たちは、説明の中身を確かめているのか。それとも、説明した人の肩書を信じているのか。
もちろん、専門家の知識を頼りにすることは大切だ。
私だって、自分が病気になれば医師に相談する。
でも、医師が言ったことなら何でも正しい、というわけではないだろう。
反対に、医師ではない人の話だから、すべて間違っているとも限らない。
誰が言ったかは重要だ。
しかし、何を根拠に言っているのかも、同じくらい重要ではないだろうか。
◆「がんが消えた」の中身を知りたい
そもそも、「がんが消えた」とは、どういうことなのだろう。
例えば、CT検査で見えていた腫瘍が、治療後の画像では確認できなくなった。
これは、実際に起こり得ることだ。
医学では、検査で確認できる病変がなくなった状態を「完全奏効」と呼ぶ場合がある。
ただし、画像に写らなくなったからといって、体内のがん細胞が一つ残らず消えたと証明されたわけではない。
一方、がん細胞が死滅したり、免疫の働きで排除されたりすることもある。
また、前回の記事で紹介した分化誘導療法のように、特定の白血病では、がん細胞の成熟を促す治療もある。
つまり、一口に「消えた」と言っても、その中身はいろいろある。
私は、ここが面白いと思う。
「消えた」と聞いたら、そこで話を終わらせるのではなく、
「何が、どう変わったの?」
と聞きたい。
そして、もっと知りたくなる。
なぜ、その変化が起きたのだろう。
◆20年以上前に聞いた話
私は20年以上前、森下敬一先生の月刊『自然医学』の出版部に勤務していた。
その頃、がんや自然治癒力について、さまざまな話を聞いた。
従来の医学とは違う考え方も多かった。
「がん細胞は消滅する」
そんな話もあった。
当時の私には、よく分からなかった。
「消滅するって、どういうこと?」
「細胞が死ぬということ?」
「それとも、別の細胞に変わるということ?」
疑問はあったが、十分に確かめることはできなかった。
それから20年以上が過ぎた。
2026年、鹿児島での出会いをきっかけに、山﨑教男さんを取材することになった。
山﨑さんは、がん細胞やソマチット、硅素などについて、長年独自の仮説を考えてきた人だ。
その話を聞いていると、昔、森下先生の周囲で聞いた言葉が次々と出てきた。
私は驚いた。
そして、また同じ疑問が浮かんだ。
「がん細胞が消えるって、どういうことなの?」
山﨑さんは、がん細胞が変化する可能性を、生命の仕組みから考えている。
その考え方は、現在の医学で確立されたものではない。
でも、私は話を聞いてみたいと思った。
なぜ、そう考えるのか。
何を見てきたのか。
どこまで確かめられているのか。
こうして取材を重ね、38の生命仮説を一冊の本にまとめた。
◆疑うことは、悪いことなのか?
私はジャーナリストとして、刑事司法の問題も取材してきた。
その中には、冤罪事件もある。
警察が犯人だと考えた。
検察が起訴した。
裁判所が有罪と判断した。
それでも、後になって、その判断が覆されることがある。
権威ある機関が出した結論でも、間違っている場合があるのだ。
だからといって、警察や検察や裁判所の判断が、すべて間違っていると言いたいわけではない。
大切なのは、事実を確かめることだ。
医療についても、私は同じ姿勢で向き合いたい。
ただし、刑事事件と医療の検証方法は違う。
医療では、個人の体験だけで治療の効果を判断することはできない。
治療前後の状態、ほかに受けていた治療、病気の自然経過、同じ結果が再現されるかどうか。
そうしたことを調べる必要がある。
でも、それは体験した人の話を聞かなくていい、という意味ではない。
私は、まず話を聞きたい。
そのうえで、確かめたい。
疑うことと、否定することは違うのだ。
◆もし、自分の家族だったら
ここで、ちょっと考えてみたい。
もし、私の大切な家族が、がんになったとする。
そして、ある日、
「検査で、がんが見えなくなったんだ!」
と言ってきたら、どうするだろう。
私は、まず喜ぶと思う。
「よかったじゃないか!」
そう言うだろう。
そのうえで、
「先生は、何て言っているの?」
「これからは、どうするの?」
と聞くと思う。
なぜなら、がんが見えなくなったとしても、その後の経過観察が大切だからだ。
では、その家族が、
「ある健康法を始めたら、がんが消えたんだ」
と言ったらどうだろう。
私は、やはり喜ぶ。
ただ、その健康法が原因だったのかどうかは、別に確かめたい。
家族の喜びを否定したいわけではない。
むしろ、大切な人だからこそ、何が起きたのか知りたいのだ。
そして、同じ病気で苦しんでいる人に伝えるなら、なおさら慎重でなければならない。
一人の体験を、誰にでも当てはまる治療法のように紹介することはできない。
それでも、その体験の中に、何か調べる価値のあることが含まれているかもしれない。
私は、そこを見落としたくない。
◆なぜ私たちは、疑うのか?
最初の問いに戻ろう。
がん細胞が消えたという話を、なぜ私たちは疑うのか?
理由はいくつもあると思う。
命に関わる話だから。
簡単に信じて、間違った判断をしたくないから。
世の中には、根拠の乏しい治療法を売り込む人もいるから。
そして、私たちは、自分が知っている常識と違う話を聞くと、戸惑うからだ。
だから、疑問を持つこと自体は大切だと思う。
でも、私は、もう一つ考えたい。
疑問を持ったあと、どうするのか。
「そんなことはあり得ない」
と言って終わりにするのか。
それとも、
「本当なら、何が起きたのだろう」
と調べてみるのか。
私は、後者でありたい。
もちろん、調べた結果、間違いだと分かることもあるだろう。
思い込みだったということもあるかもしれない。
それなら、それでいい。
分からなければ、分からないままにしておけばいい。
大切なのは、結論を急がないことだと思う。
◆「消えた」の先にあるもの
私が出版した本のタイトルは、
『がん細胞は、消えるのか?』
である。
「消える」と言い切っているわけではない。
「消えるのか?」と問いかけている。
なぜ消えるのか。
何が起きたら、消えたと言えるのか。
そもそも、がん細胞は本当に消えるのか。
山﨑教男さんの38の生命仮説も、そこを考えるための一つの問題提起だと思っている。
本にしたからといって、仮説が証明されたわけではない。
でも、本にしたことで、読者と一緒に考えることはできる。
私は、がんが消えたという話を、何でも信じたいわけではない。
反対に、何でも否定したいわけでもない。
「本当に消えたのなら、何が起きたのか知りたい」
ただ、それだけなのだ。
信じるか、信じないか。
その二つだけで終わらせるのは、もったいない。
信じるな! 疑うな! 確かめろ!
私にとって、疑問を持つことは、答えを探すための出発点なのである。
【関連書籍】
『がん細胞は、消えるのか? 山﨑教男・38の生命仮説』
がん細胞は、なぜ生まれ、なぜ消えるのか。山﨑教男氏が考え続けてきた38の生命仮説を紹介した一冊。
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信じるな! 疑うな! 確かめろ! がん細胞は、消えるのか? 山﨑教男・38の生命仮説
商品紹介
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