「世界を変える」なんて器じゃない…と思った私

「世界を変える」なんて器じゃない…と思った私

―“良い本をつくる”から、“届く”までを引き受けるための気づき―

「仕事で社会に貢献し、世界を変える思いでいなさい」

先日、ある方にこう言われた。

胸が燃えるより先に、私はこう思った。

「自分にそんな器はない」と。

けれど、そこで止まってしまうと、別の悔しさが出てくる。

「せっかく生まれた本が、必要な人に届いていないのではないか」

この感覚も、同じくらい本物だった。

1. 「器がない」は、スタートの合図

「器がない」と思うとき、私はたぶん、怖がっている。

大きな言葉を軽々しく言いたくないし、背伸びもしたくない。

でも、そのまま黙っていたら、今度は「届かなかった」という後悔が残る。

だから、こう言い換えることにした。

器がないんじゃない。器を広げる順番が回ってきた。

器は、最初から大きいものではなく、

引き受けた分だけ、少しずつ広がっていくものなのだろう。

2. 「世界を変える」は、派手な話じゃなかった

「世界を変える」と聞くと、何か巨大な成果を想像してしまう。

でも出版社の仕事は、たいてい静かだ。

一冊の本が、ある人の考え方を少し変える。

ある孤独を、少し軽くする。

ある日からの行動を、少し整える。

目立たない。でも確かに、人生の流れを変える。

出版社の仕事の価値は、たぶんそこにある。

だから私は、こう解釈し直した。

世界を変える=目の前の一人に、必要な言葉が届くこと。

このサイズに落とした瞬間、「大きすぎて重い言葉」が、

「今日の仕事に使える言葉」になった。

3. つくることに心血を注いできた。次は「届く」も引き受ける

私は小さな出版社の社長だ。資金力は大きくない。

それでも、7年間で110冊の本を出してきた。

これは、誇っていいかもしれない。

特別な才能というより、続けてきたという事実だ。

ただ、正直に言えば、私はずっと「つくること」に重心があった。

「良い本を出す」ことに集中してきた。

そして今、ようやく気づいたことがある。

本は、読まれて初めて、役目を終える。

つくることの延長に、届くところまでが含まれている。

「届く」に力を入れることを、どこかで避けてきたのだと思う。

4. 「売る」が苦手なら、言葉を変えればよかった

私には、「売る」という言葉が重たく感じる瞬間があった。

宣伝しても、手応えが薄いときがある。

そのとき、無理に自分を変えるより先に、

言葉を変えるほうが効いた。

  • 「売る」ではなく、案内する

  • 「宣伝」ではなく、橋を架ける

  • 「数字を伸ばす」ではなく、届く確率を上げる

同じ行為でも、心の置き方が変わる。

心の置き方が変わると、言い方が変わる。

言い方が変わると、続け方が変わる。

私はこの順番が、いちばん自然だった。

5. 「商品は社長自身だ」と言われて…

「商品は、会社ではなく社長自身だ」

そう言われたとき、私は素直にうれしいとは思えなかった。

どこか居心地が悪い。

本が主役じゃなくなる気がしたし、社長の“見せ方”に引っぱられたくもなかった。

でも、時間を置いて、別の意味が見えてきた。

社長が前に出るのは、自分を大きく見せるためじゃない。

「この方針でやる」と責任を引き受けるためだ。

小さな出版社ほど、「誰が、どんな姿勢で出しているか」が信頼になる。

社長が前に出るのは、自己紹介ではなく、責任の表明。

そう捉えた瞬間、抵抗が少し薄れた。

そして、私が前に出るべき場所は、私生活ではなく、

“なぜこの本を出したか”という仕事の芯だとも分かった。

6. 今日からの私の合言葉

大きな言葉を、今日の仕事に使えるサイズに翻訳する。

そのために、私はこれを合言葉にする。

私は世界を変えない。

必要な人に、必要な本が届く確率を上げる。

この言葉は、不思議と気が楽になる。

背伸びしすぎず、でも逃げずにいられる。

私の「器」は、誰かと比べて測るものじゃない。

引き受けた分だけ、少しずつ広がっていくものだ。

そう、自分に言い聞かせる。

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