出版とは何を届けたいかを言語化する行為である

本を書く前に、「何を書きたいか」より大切な問い

本を出したいと考える人の多くが、最初にこう言います。

「○○について書きたいです」

「自分の経験をまとめたいです」

「知っている知識を整理したいです」

どれも間違ってはいません。

けれど、いちばん大切なのは、「自分が何を伝えたいか」ではなく、「読者に何を届けたいのか」という視点です。

出版とは、自分の内側を語る作業であると同時に、

読者と社会に向かって言葉を届ける営みでもあります。

その軸がないまま書き始めると、「書いたけど伝わらなかった」「誰にも届かなかった」という結果になりがちです。

「なぜこの本を出すのか？」を自問することの意味

どんなに知識や経験が豊富でも、「なぜこの本を出すのか？」という動機があいまいだと、読者の心には響きません。

たとえば──

・過去の自分に読ませたいと思う一冊にしたい

・同じことで悩んでいる人の背中を押したい

・世の中の偏見や誤解を正したい

こうした「届けたい想い」をはっきりと言語化することで、

文章に一貫性が生まれ、読者との接点も明確になります。

そしてこの問いは、編集者が著者と一緒に何度も何度も掘り下げていく、

出版プロセスの最重要ポイントでもあります。

AI時代だからこそ、言葉の起点が問われる

AIを使えば、構成も見出しも本文も一気に形になります。

けれど、そのベースとなる「何を届けたいか」が明確でないと、AIの出力も芯を持たない、薄い文章になってしまいます。

むしろAI時代の今だからこそ、誰が・何のために・どんな思いで書いたのかが、これまで以上に重視されるようになっています。

「量より質」「速さより深さ」

その真価を問われるのが、出版という表現の場です。

届けたい想いを支えるのが、出版社の仕事

著者が言葉にできないもやもやや、想いの芯を見つけるのは、簡単ではありません。

だからこそ私たち出版社は、著者と共に対話を重ね、「言葉にならない想い」に寄り添いながら、言語化のプロセスを支えていきます。

あなたは、誰に何を届けたいのか？

その想いは、どんな経験や問題意識から生まれたのか？

なぜ、今、この本なのか？

これらの問いを通して、出版は「自己表現」から「社会との対話」へと広がっていきます。

まとめ

出版とは、単なる情報発信ではなく、“届けたい想い”を言葉にして差し出す行為です。

その本が、誰かの視界をひらき、背中を押し、価値観を変えることだってあります。

だからこそ、AIで書けることと、人間にしか書けないことを見極め、

自分にしか届けられないメッセージを持つことが、著者にとって何より大切なのです。

あなたが本当に届けたいのは、どんな言葉ですか？