人物とはどんな人か?――器を広げ、志を持って生きる人間の条件(中編)
人物とはどんな人か?――器を広げ、志を持って生きる人間の条件(中編)
「人物」とは、ただの有能な人ではありません
「人物になる」と聞くと、あなたはどんな人を思い浮かべますか?
仕事ができる人、知識が豊富な人、リーダーシップがある人…。確かに、それも人物の一側面です。しかし本書『人間学教室』では、人物とは「器があり、徳があり、他者を照らす存在」であると説かれています。
能力や実績の前に、「人としての土台」が問われるのです。
東洋思想が示す「人物の6つの条件」
著者・横山成人氏は、人物に求められる条件を6つに整理しています。その視点は、安岡正篤氏や論語・中庸といった東洋古典に根ざしたものです。
- 元気(げんき)
単なる体力ではありません。身体の奥底から湧き出す生命力であり、日々を前向きに生き抜く“根”の力です。
- 精神性の高さ
姿勢や習慣に現れる「心の在り方」。感謝・礼儀・謙虚さといった精神的態度が、人格に深みを与えます。
- 見識と胆識
「見識」は物事の本質を見抜く力、「胆識」はそれを実行に移す勇気です。この両輪がなければ、ただの評論家で終わります。
- 知命と立命
自らの天命(役割)を知り、それに立脚して生きること。どんな環境でもブレずに生きる強さが養われます。
- 器(うつわ)
人間的な包容力のことです。敵をも受け入れ、異なる考えと折り合いをつけられる大きな心こそが、人物の証です。
- 機(き)を掴む直観力
徳と知恵に裏打ちされた直感的判断力。これは、日々の学びと経験の蓄積によって育まれていきます。
これら6つは、単なる条件ではなく、「人物になる過程」で身につけていくものです。
志を持つ人は、迷いにくくなる
人物にとって欠かせないもの、それは「志(こころざし)」です。志とは、自分の命や人生を何に使うか、という“方向性”です。
しかし、ここで注意すべきなのは「志気(しき)と奢り(おごり)の違い」です。
周囲から評価されたいという欲求がベースにある志気は、見かけ上は立派に見えても、いざ苦難が訪れると折れてしまいます。一方、静かな覚悟に支えられた本物の志は、逆境の中でこそ光を放ちます。
志を持つことで、人生に軸ができます。迷いが減り、自分の決断に責任を持てるようになるのです。
東洋思想の中核「陰陽相対理論」
本書では、人間学を実践するうえで大切な枠組みとして「陰陽相対理論」が紹介されています。これは、万物が「陰(内・静・受)」と「陽(外・動・攻)」という相反する要素のバランスで成り立っている、という東洋的な世界観です。
たとえば、「行動力(陽)」があっても、「思慮深さ(陰)」が欠ければ、衝動的な人物になってしまいます。逆に、「内省(陰)」だけで終わってしまう人は、現実に力を発揮できません。
人物とは、この陰陽のバランスをとり、調和させる力を持った人なのです。
「人物」は、苦難によって育つ
人間は、順風満帆な時よりも、むしろ挫折や失敗を通して「人物」へと近づいていきます。
著者の横山氏も、自らの傲慢さに気づいたのは、すべてを失い、36歳でアルバイト生活に戻った時でした。多様な人と出会い、自分の未熟さを知り、自分自身を見つめ直す中で、ようやく“本心からの人間学”が始まったと言います。
つまり、人物になるということは「完成された状態」ではなく、「成長を続ける意志」を持ち続けることにほかなりません。
次回予告:人間学をどう実践するのか?
人物になるために必要な考え方や条件はわかりました。では、それを日常生活の中でどう実践していけばいいのでしょうか?
最終回【後編】では、人間学を毎日の中に取り入れ、少しずつ“人物”へと近づいていくための実践的ヒントをご紹介します。
竹簡孫子研究 戦いの原理は、陽で陰を撃つ
商品紹介
関連情報