【30数年前の自分から、メッセージが届いた!?】

【30数年前の自分から、メッセージが届いた!?】

 
今から30年ほど前のことである。
 
「先生、暑いっす。やってられないっすよ!」
「何言っているんだ! そんなの理由になるか?! あほ!」
私が、北海道の高校教師になって間もなくのことである。
高台にある校舎の2階の教室。窓を全開にして、白いカーテンが日差しを遮る。教室のドアも、廊下の窓も全開にし、風通しを良くしていても、正直、暑い。
 
教室が静かになると、隣の教室の教師の声が聞こえる。
北海道の高校には、暖房はあるが、冷房も扇風機もない。唯一、トイレが冷んやりする空間だ。
 
生徒たちは、汗を拭きながら、下敷きを扇子代わりに煽いでいる。
教師の私だって、暑い。
汗を拭きながら、しゃべり、板書し、机間巡視をする。
「暑いっ!」「暑いっ!」
あちこちから、やんちゃ生徒たちが声を上げる。
気持ちは分かるが、こればかりはどうにもならない。
 
「お前らっ! うるさい! いい加減にしろ!」
私は怒鳴った。
一瞬静まりかえる教室。こんなことが繰り返される。
一番やんちゃ生徒が、私に対して、文句? を言ってきた。
「先生だって、暑いだろう! こんな暑い中、やってられないっすよー」
 
一部の生徒が賛同の声を上げる。他の生徒は、私がキレルかどうか、疑心暗鬼になっている。
 
私の頭の中は、「何と言って黙らせようか、何か良い話はないか」を検索しながら、授業を進める。
「暑いっ!」
例の生徒がまた大きい声を出した。
 
私は、教科書を閉じ、わざと教卓に音を立て、置いた。
一瞬、教室全体が固まる。
きつめの声で話し始めた。
「あのさー、お前らさー、暑い!暑い!と言って、何か変わるか? 涼しくなるか? 扇風機が来るか? 教育委員会が動くか?」
「何も、変らないよなー。違うか?」
何を言い出すんだ?! これからキレルのか? という雰囲気で、誰も反応しない。 
「暑いっ!て叫んで涼しくなるなら、今から叫べ! 時間をやる!」
当然、叫ぶ者はいない。
「涼しくならないんなら、この暑さを受け入れるしかないだろう。先生だって、暑いんだよ。俺がお前らに暑いっ! て文句言って、何かが変わるか?」
今度は、声のトーンを下げて、静かに話した。
「雨が降ったといっては嘆き、 寒いといっては不平不満。 夏の暑さも気に入らない。いったいどうであればいいんだ。努力して何とかなることか?」
 
この話を境に、教室から「暑いっ!」という声が消えた。
 
このゴールデンウィーク、雨で電車遅れ、運休の恐れの情報が流れた時に、この出来事を思い出したのだ。
この出来事を思い出して、自分で笑ってしまった。
 
暑さ、寒さや風雨ばかりは、科学技術や文明の力をもってしても、コントロールすることはできない。人間の力を超えた自然現象を忌み嫌ったり、不満を持つことは、戦車にカマキリが向かっていくようなものだ。
誰かが「人の自然現象に対する心の持ち方や態度が、実は人間の幸福と不幸に密接に関連して、それを左右する」と言っていたが、まさにその通りだ。
 
30年前に偉そうに生徒に言ってはいたが、同じことを今の自分がしていたことに気付いた瞬間だった。不満がいつしか習慣になっていた。
もし、前日から降りしきる雨が激しさを増し、朝から土砂降りの悪天候となったら、「いい雨だ。凄まじいとは、こんな様を言うのだ。思いがけない詩情にありついたもんだ」と思えばよい。
 
夏の日の焼け付くような酷暑には「太陽とは、天の恵みであると同時に、地獄のような厳しい暑さも教えてくれるものなのだなー」と歓迎し、凍りつくような厳しい冬の冷え込みにも「なんと引き締まった清々しさか」などと、逆らわずに、「順応」するしかないということを忘れていた。
暑さ寒さも、雨も風も雪も……。
 
確かに、世の中には、思い通りにならないことが多い。しかし、会社が気に入らなければ、辞めることもできる。商品が売れないのであれば、広告を打つ手もある。何とでもなる。
でも、天候だけは、どうにもできない。
 
にもかかわらず、雨が降ると、「なんで、雨なんだよ! 外出できないじゃない」、晴れると、「こんな日に会社に行くの、もったいない」などと、自分との対話をくり返している。
これでは、ストレスが溜まらない方が不思議だ。
 
そう言えば、ある歯科医が言っていた。
「治療内容を自分で選択し、費用が掛かる自費治療を受けている人は、治りが早い。保険で決められた標準の治療を受けている人は、治りが遅い」と。
 
釣り、釣り竿、、「約angle angle」というテキストのイラストのようです
 
また、ある社長も言っていた。
「時間給で働く人は、夏は暑いの、冬は寒いの、文句ばっかり言っているが、出来高払いの人たちは、そんなこと一切言わない。真剣に働いている」と。
要は、人間の差ではなく、人は意識のあり方によって、まったく違ってしまうのだ。
 
連休の初日に、大雨をきっかけに、30年前の私と現在の自分が会話をした。
この会話は、今の自分が過去の自分に声を掛けるというのは、何かセミナーでやったことがあるが、過去の自分が今の自分に声を掛けるというのは、初めてだ。
これは、なかなかいいぞ! 
 
連休初日の出来事だった。
もし、雨が降っても、それを楽しもう!
 
※念のためこのイラストを解説すると、ペンで人を釣るです。
 
 
 
 
 

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