『つりひろの入院妄想記~一病息災~「一」の章』◆自分を裁く男◆自分を裁く男
◆自分を裁く男
入院して私は、自分の生活習慣について反省の日々を送っている。面会に来る人たちも、やんわりとその点を責めてくる。「反省くらいはサルでもできる」というキャッチコピーがあったが、サルに対して随分失礼だと思ったことを思い出す。
ただ、私の場合、反省したからといって行動や実践が是正されるわけではない。その点を誤解しないでもらいたい(もっとも、そんな誤解をする人はいないと思うが…)。反省したくらいで矯正されるほど、私はやわな男ではないのだ。
振り返ってみると、私は毎日の反省では飽き足らず、お盆には年初からの8カ月間を、年末には1年間を振り返り、総括するのが習慣だ。もっとも、私が言う「総括」は連合赤軍のそれではない(これで何人が理解するだろうか?)。私の場合、両親ではなく「良心」が裁判長となり、心の中で自分の生活や一年間を裁く。ここは笑うところである。
裁く基準は法律では甘すぎる。私は法律よりも遥かに厳しい「私の良心」によって裁かれるのだ。ちなみに、裁判で証人は「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」と義務付けられている。良心とはそれほど厳しいものなのだろう。
妄想の中で、私の裁判(刑事)を思い返してみる。当然、私は被告人席に座り、弁護人もいない。
「起訴状によりますと、あなたの罪は618にのぼります。毎日のように罪を犯した計算になりますね。今日はその中からいくつかを審理します」
「裁判長! そもそもその起訴状は誰が作成したのですか?」
「監視員の報告に基づいて検察官が起案しました。最初の罪は、あなたが嘘を書いているという罪です」
「確かに、正直に書かなかった部分はあります。〈本書を読めば分かるが(分かりたくない人は、読まずに買うだけにとどめておくとよい)〉と書きましたが、本当は〈本書を読む読まないにかかわらず、買っていただきたい〉と書くべきでした。しかし、日本人には本音を隠す表現の方が合うと思い、結果的に真実を偽りました」
「そんなことより、〈病気になった〉〈気弱な私〉などと書いていますね」
「確かに〈病気にした〉と書くべきですが、編集者に『〈病気になった〉の方が一般的だ』と言われて書き直しました」
「〈病気になった〉という表現をすべて〈病気にした〉に訂正してください。あなたの抗弁は、子どもが花瓶を割ったときに『花瓶が割れた』と言い訳するのと同じです。花瓶が勝手に割れるわけがないでしょう? 落としたり叩いたりしたから割れたのです。だから『花瓶を割った』と表現するのが正しい。あなたは不適切口実罪、虚偽私文書作成罪です。そして、原因の一つである肥満に関する罪状について審理します。無駄に脂肪を体に蓄え、血液を汚し、生活習慣病を招いて社会保障に負担をかけた罪です」
「それなら自信を持って抗弁します。まず、太ったのは急激ではなく20年前からです。次に、高価な食事はしていません。安い食材ばかり買い、しかも20%引き、30%引き、半額のものを選んでいます。そして、今も貧しいと言われています」
「あのですね、高いか安いかは罪とは関係ありません。太ったのが1年前ではなく20年前からなら、常習累犯として刑期が加重されます。さらに、良いものを食べずに太ったなら、良いものを食べて太るより悪質です。貧相肥満罪の可能性が出てきます」
「裁判長、私は故意に太ったわけではありません」
「この罪は過失犯です。故意は関係ありません。重要なのは〈ある事実を認識・予見できたにもかかわらず、注意を怠り、結果を回避する行動を取らなかった〉ことです。あなたは健康系ジャーナリストを自称しているではないですか? 知らないとは言わせません。もし知らずに自称していたなら、経歴詐称罪、職業詐称罪に問われますよ」
「でも、社会の厳しさから身を守るために鎧が必要だったのです。だから、脂肪という鎧をまとっただけです。社会が嘘のない社会になれば脱ぐつもりでした」
「他人や社会のせいにするのですか? 同じ状況でも痩せている人はいますし、病気にならない人もいます。責任転嫁罪に該当しますよ」
「厳しすぎませんか? 何か言えば言うほど罪が増えるように感じます」
「それが自然の法則です。唯一残された方法は、自分を裁くことをやめることです。それで裁判は取り下げられ、あなたは裁かれる必要がなくなります」
「分かりました。来年から自分を裁くことをやめます」
「いいえ、今からです」
ここで私は妄想から目を覚ました。
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