「まずは基本から:増刷とは何か?」
「まずは基本から:増刷とは何か?」
〜同じ内容を“もう一度刷る”、それが「増刷」〜
出版業界の言葉として「増刷(ぞうさつ)」という用語があります。
この言葉、日常ではあまり耳にしないかもしれませんが、実はとても大事な意味を持っています。
「え?売れてるってこと?」
「“重版”とは違うの?」
そんな疑問に、このパートで答えていきます。
「増刷」とは:同じ“版”のまま、刷りだけを追加すること
まず、前提として本には「版(はん)」と「刷(すり)」の2つの情報が存在します。
- 版(はん):内容の“設計図”そのもの(初版・第2版など)
- 刷(すり):その設計図を使って印刷する“回数”(1刷、2刷…)
増刷とは、版を変えずに刷りだけを追加すること。
つまり、内容はまったく変えずに、印刷だけを増やして供給を増やすという意味です。
📌 例:
- 「初版1刷」→「初版2刷」→「初版3刷」…(すべて“初版”のまま)
なぜ増刷されるの?
答えはシンプルです。
「売れて在庫が足りなくなったから」
読者の反応がよく、書店やECサイトでの注文が増えたとき、
出版社は在庫切れにならないよう「もう一度刷る=増刷」を行います。
つまり、「売れている証拠」ではあるけれど、内容がアップデートされたわけではないというのがポイントです。
「じゃあ、どこを見れば増刷かどうかわかるの?」
本の一番最後のページ、奥付(おくづけ)を見てみましょう。
たとえばこんなふうに書かれています:
初版発行:2023年10月10日
第3刷発行:2024年1月15日
この場合、2023年10月に初版が出て、その内容のまま2024年1月に3回目の印刷が行われたということ。
つまり「初版第3刷」=増刷ということになります。
増刷では“内容は変わらない”のが基本。ただし例外も…
原則として増刷時には内容は変わりません。
しかし現場では、ごく軽微な誤字・脱字の修正程度であれば、増刷のタイミングでこっそり直されることもあります。
これはあくまで編集上の小さな調整であり、「重版」や「改訂」としては扱いません。
■ 著者や読者にとって「増刷」とは?
◆ 著者にとって:
- 売れたという実感が得られる
- 印税収入がさらに発生する
- 評価・実績にもつながる(「◯刷」という回数はPRに使われる)
◆ 読者にとって:
- 内容がまったく変わっていないことを前提に安心して購入できる
- 品切れだった本が再び手に入るチャンス
■ まとめ:「増刷」は、静かに嬉しい“増産”の証
「増刷」とは、内容を変えずに“もう一度届ける”という行為です。
売れた本がもう一度読者の手に届く、その裏側には“必要とされる言葉”があったということ。
次回はいよいよ「重版」について。
増刷と何が違うのか? どこに“内容の変化”があるのか?
具体的に解説していきます。
次回 → 「重版とは何か?“版”が変わる意味」
関連情報