６、シナモンバナナ

 

宿題の、「バナナはおやつか？弁当のおかずか？」論争について、ここで触れることにする。

今にしてみると、遠足に行くときに、各自持参するオヤツに金額制限があるのは、家庭の経済格差を生まないためなどの裏の事情があったことに気が付く。そうした金額制限は、今でも存在するため、当然次のような疑問が児童の側から出ることが予想される。

「バナナはおやつですか？」

　おやつにすると、児童たちが持参していくお弁当には適用されないから、お菓子分の値段が引かれ、おやつが一つ減ることになる。バナナを弁当の一部と見ればオヤツとして持っていく分には影響を受けないことになる。はじめてこの質問をした児童（もしかしたら、親が子どもに先生に聞いて来い！といったのかもしれないが…）発想した者はかなり賢いと思われるが、今ではあまりに使われすぎて、遠足の前の定番、ともすれば、オヤジギャグに成り下がっている感すらあるので、調子に乗って使うときには場の空気を読む注意深さが必要になる。

勇気を出して、我が子にこの質問をぶつけたことがある。

「弁当のおかずに決まってるじゃん！」

「決まっているの？」

「先生が、そう言ったの！　そう決まっているの！」

　まあ、使い古されたギャクにしか思われていないこの質問だが、「チコちゃんに聞いてみよう？」ではないが、真面目に答えられる大人は、どれくらいいるのだろうか。真面目に捉えると意外に難しい問題ではないだろうか。 蛇足だが、「メロンはおやつに入るんですか？」「パイナップルはおやつに入るんですか？」などと訊く奴はいないだろう。

 

　なぜ、バナナだけ、こういった発言の対象になるのか。結局、バナナがおやつか弁当かで迷うのは、どこでも食べることを可能にするからに他ならない。だいたい、バナナがお弁当箱に入っているとして、この時点でのバナナがおかずの性質をもっていることに疑いを差し挟む奴はいないだろう。バナナが常にこの難問の矢面に立つのは、バナナが例えば遠足で歩いている途中にもぐもぐと食べているような場合で、ここにバナナのおやつ度は一気に高まる。

 かくいう私は高校の教師になった。生徒から質問が来ないか、楽しみにしていたが、そういう質問が来ない。だから、こっちから話を振ってやった。高校生になると賢くなるものだとつくづく思う。私の振りに付き合ってくれる。

「先生！　バナナに限らず、食物を弁当のおかずかオヤツかに分ける基準は、『弁当のご飯のおかず』として食べるか、まったく独立に『間食』として食べるかどうかでいいんじゃないですか？」

さすがだ。確かにそうだ。バナナをオヤツと認めるかどうかは、バナナ単体で決められるような問題ではなく、バナナを取り巻く状況、すなわち「バナナを食べるときの付帯状況」によって決定されるということなのだ。だから、「バナナはおやつに入るのか？」問題は、遠足の前の諸注意で先生に質問しても、残念なことにそこで答えの出るような類の問題ではなかったのである。子どもの頃、この質問をされた先生が頭をかきながら、「いやぁ。」なんて言っていた理由がここにあったのか？！

　この「バナナ問題」は、バナナ単体の存在では「決定不能」と答えることで解決したのだ。

　どうでもいいことを長々と書いてしまったようだ。そろそろ、レシピに移らなくて、叱られそうである。

 

バナナ好きによるバナナの美味しい食べ方とは、いわゆる「完熟でそれも傷みかけたギリギリのところを食べる」ことなのはよく言われるところだ。

バナナの皮をむき、縦に半分に切る。長さは、半分にしてから、縦に切ってもよい。フライパンに油を引き、バナナを置く。少ししたら、裏返して、両面を軽く焼く。少し光沢が出で、甘い香りがしてくる。バナナを平たい皿に並べ、シナモンをかける。

 

それで終わりである。お好みで、アイスクリームを載せるのもよい。香りづけにブランデーをほんの数滴たらすと大人の香りがしてくる。

 

　これはデザートである。デザートなぞめったに食べない私が、うまい！（安い！　簡単だ！）と思ったのだから、デザート嫌いの男性、女性諸君にお勧めする。